脊髄損傷

1 脊髄損傷とは

脊髄損傷とは、人間の小脳から腰椎(ようつい)に伸びている中枢神経である脊髄(せきずい)が、交通事故で生じた衝撃によって損傷することをいいます。脊髄損傷の症状としては、損傷された脊髄から手足の指先の部分において運動・知覚に障害が現れ,また麻痺を生じること等が挙げられます。

脊髄は,脳と同じ中枢神経です。従って,完全麻痺と不完全麻痺どちらの場合であっても、一度傷つくと二度と元に戻らないと言われています。脊髄を損傷することによって、交通事故の前後の生活が大きく変わってしまいます。場合によっては家屋の改造、介護なども必要になってくるでしょう。その後の生活を安定させるためには,適切な後遺症認定を受けしっかりとした補償を受けることが不可欠となります。

脊髄損傷の種類

完全麻痺          不完全麻痺

完全麻痺とは、下肢がまったく動かず感覚もなくなった状態のことをいいます。

しかし、全く何も感じないわけではありません。受傷した部分から下の麻痺した部分にかけて、痛みを感じることもあります。?

不完全麻痺とは、脊髄の一部が損傷して一部が麻痺をしている状態のことをいいます。

ある程度運動機能が残っている軽症から感覚知覚機能だけ残った重症なものもあります。

麻痺の範囲
四肢麻痺 両側の四肢の麻痺
対麻痺 両下肢又は両上肢の麻痺
片麻痺 一側上下肢の麻痺
単麻痺 上肢又は下肢の一肢のみの麻痺
麻痺の程度
高度 傷害のある上肢又は下肢の運動性・支持性がほとんど失われ,基本動作(下肢の場合は歩行や立位,上肢の場合は物を持ち上げて移動させること)ができない
中等度 傷害のある上肢又は下肢の運動性・支持性が相当程度失われ,基本動作にかなりの制限がある
軽度 障害のある上肢又は下肢の運動性・支持性が多少失われており,基本動作を行う際の巧緻性及び速度が相当程度失われている

2 脊髄損傷の後遺障害の認定

障害等級の例

第1級 高度の対麻痺が認められる場合など
第2級 中程度の四肢麻痺が認められる場合など
第3級 中程度の対麻痺が認められる場合など

脊髄損傷の認定は,麻痺の「範囲」とその「程度」を踏まえて行われます。また脊髄損傷の障害は,臓器の障害や脊柱の障害を伴うことも多いため,それら障害も含めた等級認定が行われることになります。

認定には,医師の後遺障害診断書に加えて,高次CT画像やMRI画像などの画像所見,神経学的所見などの資料が必要となります。

適正な認定を受けるためには,上記の必要な資料を整えた上で認定手続きを行う必要があります。

3 低髄液圧症候群(脳脊髄液減少症)の損害賠償

低髄液圧症候群とは、脊髄損傷の一つといわれていますが、以下の要件が特に問題となる類型とされています。

(1)損害の発生

損害とは何かについては法律上議論があるところですが,近年有力な考え方では,事実自体を損害と考えますので,この考え方に従いますと,低髄液圧症候群(脳脊髄液減少症)を発症したこと自体が損害となりますので,(1)の要件との関係では,低髄液圧減少症(脳脊髄液減少症)の発生の事実そのものを立証していく必要があります。

低髄液圧症候群(脳脊髄液減少症)の診断基準

「低髄液圧症候群(脳脊髄液減少症)を発症したという損害がある」ことを証明していくためには,(1)~(4)の審査基準のどれかひとつというわけではなく,万全を期するならばすべての基準を満たしておくべきということになりますから,訴訟を提起する原告側としては,きわめて難しい立証活動を迫られる状況なのです。このように,損害として認められるかどうかが,最初のハードルとなっています。

(2)因果関係

次に,(2)の要件との関係で,損害が発生したとして損害が事故を原因としていることが立証できなければいけません。では,低髄液圧症候群(脳脊髄液減少症)が,交通事故を原因として発症したと認められる可能性はどの程度あるのでしょうか。実は,ここが裁判所において低髄液圧症候群(脳脊髄液減少症)に起因する損害賠償請求権を認めてもらう上での一番高いハードルとなっているのです。

低髄液圧症候群(脳脊髄液減少症)は,さまざまな要因で発症することがあるといわれています。ですから,事故を原因とする外傷から発症することもあります。ですが,それ以外の要素から発症することもあり得るため、それらを排除して、交通事故によるものであることを立証することが必要になります。